【先進事例を学ぼう】「ケアには居場所と舞台が必要」/春日台センターセンター・馬場理事長講演

神奈川県足柄上郡山北町で「山北空き家福活プロジェクト」に取り組んでいる一般社団法人かながわ福祉居住推進機構は2月21日、他自治体の先進的な事例を学ぶ「特徴的事例研究会」を開催しました。

講師には、神奈川県愛甲郡愛川町で地域の中心にあったスーパー「春日台センター」跡地に複合福祉施設「春日台センターセンター」を2022年3月に開所した社会福祉法人・愛川舜寿会の馬場拓也理事長をお招きしました。
馬場理事長は「ケアは居場所だけでなく、その人が活躍できる舞台が必要。時間はかかったが、獲得したものはすごく大きい」と約6年に及んだ事業計画を振り返りました。

「春日台センターセンター」について説明する馬場拓也理事長

「春日台センター」をもう一度地域の中心に

愛川町の酪農家に生まれた馬場理事長は、大学卒業後にGAPやアルマーニといった有名アパレル企業で勤務。

2010年、34歳の時に帰郷して両親が立ち上げた愛川舜寿会を引き継ぎました。「異色の転身」を遂げた馬場理事長は新聞などのメディアでも取り上げられました。
そんな折、「一住民として気になっていたことがあった」と振り返ります。
それは地域住民が買い物をしたり、軒下で雑談をしたり、子どもたちの遊び場にもなっていた「春日台センター」が閉店するという報せでした。

「春日台センター」は馬場理事長にとっても子どものころによく遊び、名物のコロッケを頬張っていた思い出の場所。
「『春日台センター』をもう一度地域の中心にしよう」という思いから「春日台センターセンター」(KCC)の事業に取り掛かったといいます。

2016年、相模原市障がい者殺害事件、壁を壊す

そして2016年4月に「春日台センター」は閉店します。
その3か月後、愛川町に隣接する相模原市で障がい者施設19人殺害事件が発生。
「2016年は私の転機の年だった。社会の在り方を問い直さなければならない」
との思いに駆られ、馬場理事長は事件から1か月後、自身が運営する特別養護老人ホームの壁(長さ約80m)をハンマーで取り壊すプロジェクトに取り掛かりました。
「障がいに対する偏見は、フライパンの焦げのように取り除くのが大変」としながらも、そのためには高齢者や障がい者らの姿が「見えることがとても重要」と強調します。

KCCの事業も同時並行で取り組みますが「跡地利用事業者公募」を経る必要があり、行政との連携も欠かせません。計画が進まない間も「地域を温め続けよう」と始めたのが地域づくりを考えるワークショップ「あいかわ暮らすラボ」(あいラボ)でした。「あいラボ」は、「春日台センター」の跡地利用だけでなく、愛川町の将来を考える場にもなりました。

「ケアには居場所と舞台が必要」

そして2022年3月にKCCが完成します。
設計は建築家の金野千恵さんが手掛け、「春日台センター」にあった軒先を再現。地域住民が憩える「中間領域」を復活させました。
KCCには認知症グループホーム、小規模多機能型居宅介護、放課後等デイサービスなど七つの機能があり、この中には障がいを持つ人が働くコロッケスタンドやコインランドリーも配置されています。

さまざまな機能を併せ持つ「春日台センターセンター」(講演会の配布資料より抜粋)

コロッケスタンドでは自閉症の男性が働いているといい、「コロッケを揚げるのは彼らの一つのステージ、舞台なんです。言葉を上手くしゃべれないんだけど、毎日来ている人には『ありがとうございました』という言葉が分かる。人間の不思議というか、当たり前というか。言語だけど、言語だけでコミュニケーションを取っているわけではない。手や目、非言語のコミュニケーションを取っている。これがいつ発生するかというと、施設に閉じ込めていたら発生しない」

「『ケアとは何だ』というと、『居場所だけではだめなんだ』と強く思っている。居場所と、その人が何かをできる舞台が必要なんじゃないか。(姿が)見えることがとても重要で、KCCが始まってまだ2年目だが、これからも重ねていこうと考えている」

そして最後に「『ケア』とは時間をあげること。認知症の人と信頼関係をつくるにも一定の時間がかかる。地域を耕す、地域をケアするときにも時間はかかるが、その分獲得できたものはすごく大きい。一方で今はスピードの時代。ビジネスの世界では単年度で(仕事を)納めないといけないというのは理解しているが、基本のスタンスとしてケアには時間がかかるということをもう一度考えないといけない」と福祉や地域づくりに取り組むには、息の長い活動が必要であることを説きました。